ストラディヴァリウス1696年製チェロ「ロード・アイレスフォード」

初めてこの楽器を弾いた日は、これまでの人生で最も不思議な一日でした。ストラディヴァリウスを弾くのは子供の頃からの夢でしたが、二つの事柄で大きな責任を感じました。一つは長い歴史の中でこの楽器を弾いてきた数々の立派なチェリストたちのような演奏家になることで、この楽器の弾きかたのすべてを学びたいという想いを強く抱き、そのことに夢中になりました。もう一つはこの楽器の歴史的な重要性をよく理解していたので、当初は楽器に何かが起きる悪夢をよく見ました。数百もの公演を共にしたこの楽器は私の身体の一部、親友のようで、世界中、音楽の旅を共にしています。その美しい音色を自分の声のように感じ、いまでは我々はすばらしいチームだと思います。

（音楽の友 2022年9月号掲載）