ストラディヴァリウス1709年製ヴァイオリン「エングルマン」

「エングルマン」は力強いヴァイオリンで、まるで龍のように激しい音質を持ち、低音弦において特にそれが顕著です。同時代に製作されたものよりも楽器本体のサイズが大きく、その分、より多くの木を介して音を共鳴させることが可能となり、その結果、より大きな音を出せるのです。暗く満ちた音色を自然に出せる特性もあり、チャイコフスキーやブラームスのような深い音楽を演奏するのに特に適していることがわかりました。G線は殆どバリトン歌手と同じようにうなり、とても大きく共鳴します。私はこれまで美しく甘い音に信頼を置いてきましたが、それに加え、このヴァイオリンを演奏して音のスペクトルにおいて暗黒な側面を見出すことができたのは確かです。

（音楽の友 2022年9月号掲載）