VOICES
演奏家
ストラディヴァリウス1730年製チェロ「フォイアマン」
私の師ボリス・ペルガメンシコフが偉大なチェリスト、エマヌエル・フォイアマンが弾くポッパーのスピニング・ソングのビデオを見せてくれたときのことを今でも鮮明に覚えています。この頃、フォイアマンはチェリストの世界で徐々に注目を集め始めるようになっていました。しかし、とても若くして亡くなってしまった彼は、彼と同じように才能を持つ仲間たちが受けたような称賛を味わうことはありませんでした。高度な技術かつ見事に難なく弾いてしまう巧みさを併せ持つ様は、私にとって全く初めて目にするもので、ただただ頭がくらくらしたものです。この出会いからほどなくして私の師は、第一回目のフォイアマン・コンクールが間もなく開催されることを明かしてくれました。このコンクールで優勝したことで私とフォイアマンの距離が近づいたことに間違ありませんが、あのポッパーのスピニング・ソングを収録した時に実際に使用したストラディヴァリウス・チェロを弾くことになったことは、正に夢が叶ったようでした。
ストラド・フォイアマンの音色と個性というのは実に独特で、ラジオでもすぐにそれと分かるような特徴があります。たとえば、もし音に独特の個性を持つ二人の演奏家がそれぞれこのチェロを弾いたとしても、それがまぎれもなくフォイアマンだと分かるでしょう。1940年7月、エマヌエル・フォイアマン自身もこのチェロについて手紙にこう書き記しています。「このチェロは素晴らしい。これまでにも他のストラディヴァリウスを弾く機会はあったが、私のこのテノールのような音をすぐに出せる楽器は他になかった。」フォイアマンがこのストラド・フォイアマンに感じたことを皆さんも今夜感じることでしょう。
(2015年7月9日開催 日本音楽財団演奏会プログラム掲載)
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